トランジスタだけでコンピュータを作るキットFullTr-11製作のきっかけ
自己紹介も兼ねて、どうしてFullTr-11を作ることになったのかを書きます。
幼少のころ、初めて電卓をいじったときのことです。
「こんな小さな機械で、どうして計算ができるのだろう」と思いました。
それがいつの頃だったか、正確には思い出せません。
幼稚園のときだったような気もしますが、幼稚園児が四則演算を理解しているのも変なので、小学生のときだったのかもしれません。
しかし、その疑問は解消されないままでした。
小学生の後半になると、電子工作を覚えました。といっても、父親の持っていた半田ごてを借りて、本に載っている回路をそのまま組むだけでした。
これもいつのことであったか正確には思い出せませんが、おそらく小学校の4年生か5年生のころだったと思います。
ラジオなども作りましたが、「どうしてこれでラジオが鳴るのか」が理解できず、程なくして電子工作への興味を失いました。
わけもわからず何かを作るということには興味を持てなかったのです。そんな子供でした。
今にして思えば、ラジオの動作原理を理解するには、最低でも微分方程式を用いてコイルとコンデンサの同調を理解する必要があり、小学生に理解できるはずがありませんでした。
ずっと後になり、確か、高校の2年生か3年生の時に、何かの拍子に、コイルとコンデンサを用いた回路のインピーダンスを微分方程式で解く機会があり、「ああ、これがラジオで同調をとる理屈か」と原理をある程度理解したことを覚えています。
これが、物理か何かの演習問題の一部であったのかどうかなどはよく覚えていませんが、積年の疑問が解決した割には、あまり感激などはありませんでした。
コイルとコンデンサの同調は理解できても、ダイオードやトランジスタの動作原理は理解できず、結局のところラジオが動作する原理を理解したという気持ちにはなれませんでした。
高校の技術・家庭の授業で、N型半導体とP型半導体の説明や、電子・ホールによるダイオードやトランジスタの原理の解説がありましたが、正直、よく理解できませんでした。
これも、今にして思えば、これらのことをいい加減な定性的な話でなくきちんと理解するには、量子力学の知識が必要で、平凡な高校生に理解できるわけがありませんでした。
そんなわけで、電子工作からは縁遠いままでした。
大学生になると、パソコンをいじる機会も増えましたが、「どうしてパソコンが動くのか」という根本的なモヤモヤをいつも抱えていました。
最終的に、加算回路の原理を知り、根本的にコンピュータがあるいは電卓がなぜ計算をできるのかを理解したのがいつであったかも、はっきり思い出せません。
これも、何か理解した瞬間があったというよりも、演習問題を解いていて、「ああ、これが計算機の原理か」と思ったという感じだったと思います。
ただ、そのときには、半導体に不純物を混ぜたらどうなるか、などを量子力学に基づいて理解しており、既に、ダイオードやトランジスタの動作原理を理解していたので、すんなり理解できたことを覚えています。
そのことからして、大学の4回生か修士のときあたりだったのでしょう。
これで、「なぜ電卓やコンピュータが動くのか」という積年の疑問は解消しました。
トランジスタをどういう風に組み合わせればコンピュータが作れるかもわかりました。
そのとき、トランジスタを使って実際にコンピュータを作ってみたいとは思いましたが、実行には移しませんでした。
どう考えても、自分が作って実際に動作させられるとは思えなかったからです。
当時は、フリーの高機能なCADソフトなどはなく、個人向けにプリント基板を作ってくれるサービスもありませんでした。
ユニバーサル基板で作ればどんなことになるか、考えただけでも恐ろしいことになるのは明白でした。
汎用ロジックICで作るという手もあったかもしれませんが、原理的なところから作らないと納得できない自分がおり、ブラックボックス的な部分を残した汎用ロジックICを使うということは考えられませんでした。
そもそも、当時の私には、他に、やりたいこと、やらねばならないことがたくさんあり、トランジスタでコンピュータを作りたい、という願望は、実際には一瞬だけ頭をかすめ、そのまま闇に葬り去されるといった感じでした。
それから月日が流れました。いろいろあって、幸か不幸か、毎日ヒマをもてあましている自分がありました。
そんなときに、ネットでふと、中日電工さんのMyCPU80と、がたろうさんのRETROF-8, RETROF-16のサイトを見つけました。
TTLやCMOSの汎用ロジックICを用いてCPU・コンピュータを作成しておられる様子を書いたサイトです。
それを見て、昔、トランジスタでコンピュータを作りたいと考えたことを思い出しました。
かつてはとてもできそうにないと思っていたことですが、今なら、高機能なCADソフトがフリーソフトで使え、個人向けにプリント基板を作ってくれる会社もあります。
「今ならやればできる」そう思いました。でも、自分がそう思うということは、他人が既に行っている可能性があります。
調べてみますと、汎用ロジックICやリレーでコンピュータを作っている人は見つかりましたが、トランジスタを使っているものは、世界中を探しても見当たりません。
「ならば自分がやるしかないか。どうせヒマだし。」と思い作ったのがFullTr-11です。
幸い、K氏,T氏といった有能な方々の協力を得ることができました。マシン語などの根幹部分は私一人が設計しましたが、実際の個別の作業はこれらの方々の貢献によるところが大です。
ご協力くださった方々に感謝です。
こうして作られたFullTr-11ですが、次回は、このコンピュータがなぜ11ビットなのかを書きたいと思います
次回へ