ビル・ゲイツ初期の経歴を再検証 --- Part36
まとめ
以上、いろいろ調べてきましたが、最初に述べた「パソコン創世記」に書かれている記述に関しては、以下のように言えます。
- ビル・ゲイツが中学生の時に、通っていたレイクサイドスクールという学校が、GEとコンピュータの時間借り契約を結び、DECのPDP-10を時間借りできることになった。
→DECのPDP-10ではなく、GEの635を時間借りした。テレタイプ端末がリースで導入された。
- ビル・ゲイツと上級生のポール・アレン他の数名がコンピュータに夢中になった。
→正しい。
- コンピュータの使用料として準備された予算をあっという間に使い切り、さらに予算を超えて使用した。
→予算を超えて使用したかどうかは不明。母親会から少しだけ予算の追加があった。
- 学校は予算超過分の費用をビル・ゲイツの両親等に請求した。
→そのような事実はない。これは、2次文献の著者が、CCC社のPDP-10使用が有料化された以降の話を取り違えて理解したものと考えられる。
- CCC社で夜間や週末に無料でPDP-10を使えることになった。
→正しい。
- CCC社はPDP-10のバグを見つけている間は使用料が免除される契約をDECと結んでおり、ビル・ゲイツらをバグ発見に利用した。
→バグを見つけている間は使用料が免除され続けるわけではない。あくまでも、導入直後に検証期間が設定されているにすぎない。
- その後ポール・アレンは地元シアトルのワシントン州立大学に進学。
→地元シアトルではなく、プルマンのワシントン州立大学である。これは、2次文献に書かれている間違いではなく、「パソコン創世記」の作者の間違いである。
- ビル・ゲイツが高校生の時に、ポール・アレンとトラフォデータ社を創業。
→正しい。(厳密には会社ではなかった。)
- ボーイングの技術者に依頼して小型コンピュータを作ってもらった。
→ボーイングの技術者ではなく、知り合いのワシントン大学の学生に依頼した。
- ハーバード大学の学生の時に、MITS社のコンピュータであるAltair向けのBASICを作った。
→正しい。
- Altairの実機は持っておらず、PDP-10上でIntel 8080CPUのエミュレータを作成して、BASICを作った。
→正しい。
そして、「パソコン創世記」の記述に関する疑問に関しては、以下のように言えます。
- なぜGEは自社のコンピュータではなく、DECという他社のマシンを時間貸ししていたのか。UNIXの項で述べたように、当時GEは自社でコンピュータを製造・販売していた。
→DECのマシンではなく、自社のGE-635を時間貸ししていた。合理的に理解できる話である。
- 両親が予算超過分の使用料を払っただけで済むのか。超過分を支払ってもらっても予算は使い果たしており、他の生徒はコンピュータを使えない。権利関係に敏感なアメリカで、他の生徒の両親は、自分たちも費用を負担しているのに、自分の子供たちがコンピュータに触れる機会を奪われたままであり、それが一部の生徒のせいであることに対して黙っていたのだろうか。
→関心のある生徒を対象としたプロジェクトを支援するものであったため、そういった問題は生じなかった。
- 追加料金支払いを求められた親とビル・ゲイツとの間で話はされなかったのか。以降コンピュータに触れるのは禁止になってもよさそうだが、そのような形跡は見られない。
→追加料金支払いを求められたという事実自体が存在しない。個人ごとに料金を払うことになって、ポール・アレンの使用料が高額となり、ヒヤリとしたことはあった。
- CCC社とレイクサイドスクールとはどこでつながったのだろうか。
→CCC社の創業者に、レイクサイドスクールに通う生徒の母親がいた。
- 夜間にコンピュータの会社CCCに入り浸ることに対して、親は何も言わなかったのか。
→特に親に何かを言われたということはなかったようだ。
- CCC社への送り迎えはだれがしていたのか。特に帰りは深夜であり、出歩くのは危険なはずである。
→親の誰かが通りかかれば車で送ってくれたが、そうでないときには徒歩で家まで帰った。
- バグを見つけている間は使用料が免除されるなどというムシのよい契約があるのだろうか。そんなことをしていたらDECは商売にならないのではないだろうか。ある程度のバグは付き物だろう。そのような契約をCCC社以外の会社と結んだという話は聞いたことがなく、無名のCCC社だけがどうしてそんな有利な契約を結べたのか。
→バグを見つけている限り使用料が免除され続けるわけではない。導入直後に、大きなバグがないかどうかを確認する検証期間が設けられ、その間は使用料がかからないというだけの話である。CCC社だけが特別に有利な契約を結べたわけではなく、一般的な契約である。
- いっかいの高校生が、なぜ大企業ボーイングの技術者と面識があったのか。ボーイングの技術者は、本業と無関係な仕事をどういう条件で引き受けたのか。
→ボーイングの技術者ではなく、ワシントン大学の学生である。
- CPUである8080のエミュレータを作っただけではAltair用のBASICは作れない。Altair全体のコンピュータアーキテクチャを知る必要がある。この情報はどこで手に入れたのだろうか。
→ポピュラー・エレクトロニクス誌の記事のほか、MITS社に直接質問をしていた。
- 高校生が、人前で母親に泣きつくなどということがあるだろうか。ましてや、負けん気の強いビル・ゲイツがそんなことをするだろうか。そんなことをしても状況は改善しないことくらいわかりそうなものだ。
→これは、ビル・ゲイツの母親であるメアリー・ゲイツが、事実をもとにして話を面白おかしく膨らませて記者に語ったものと思われる。人前で母親に泣きついたという事実はなかったと考えるのが妥当であろう。
2次文献の中には、取材した結果をもとにして、それらが合理的につながるようにストーリーを作り上げてしまったものがあるようです。また、ビル・ゲイツ自身が、事実と相違することを語ったこともあるようです。
そういったものがいろいろな形で現在まで伝わり、流布してしまっているものが、少なからずあるようです。
本ブログでは、ビル・ゲイツの初期の経歴しか検証していませんが、それ以降にも同じような事例があるかもしれません。
以上で、長きにわたった、ビル・ゲイツ初期の経歴を再検証するブログを終了いたします。
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