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UNIX初期の歴史再検証 --- Part3

・1次資料から読み取れること

 まずは1次資料から明示的に読み取れることを書きます。

・開発時期

 開発時期に関しては、各マニュアルの表紙に明示されています。以下の表の通りです。

バージョン時期
バージョン11971/11
バージョン21972/6
バージョン31973/2
バージョン41973/11
バージョン51974/6
バージョン61975/5
バージョン71979/1


・使用された状況(何台にインストールされたか)

 インストールされた台数は、2nd Editionのマニュアルに

The number of UNIX installations has grown to 10

と書かれています。
これは2nd Editionのマニュアルですので、マニュアルが書かれた時点までにインストールされた台数、つまり、バージョン1のインストール台数が10台ということです。
ネット上で、バージョン2の使われた台数が10台としている記事を見かけたことがありますが正しくありません。
 3rd Editionのマニュアルには

the number of UNIX installations has grown to 16

と書かれており、バージョン2で台数が6台増えていることがわかります。
 4th Editionのマニュアルでは

The number of UNIX installations is now above 20

と書かれており、バージョン3で、台数がさらに4台以上上積みされています。
5th Editionのマニュアルには

The number of UNIX installations is now above 50

と書かれており、バージョン4が30台程度にインストールされ、大幅に累積台数が増えていることが記述されています。
6th Editionと7th Editionのマニュアルには、インストール台数に関する記述はありません。


・対応ハードウエア

 バージョン1からバージョン5までは、マニュアルに対応ハードウエアに関する明示的な記述はありません。

 バージョン6:バージョン6のsetupドキュメントに、

The UNIX system running is configured to run on an 11/40

と書かれており、PDP-11/40が対応ハードウエアであることがわかります。

 バージョン7:バージョン7のsetupドキュメントに

The distribution tape can be used only on a DEC PDP11/45 or PDP11/70

と書かれています。

バージョン5までの対応ハードウエアが明示的に書かれていないのは、それがこの時点でのUNIXユーザーには自明な事柄であったからであることが1.1次資料以降でわかりますが、この時点では明示的には書かれていないとしか言えません。


・必要メモリ

 1次資料には記載がありません。

 ここまでの事項をまとめると、以下の表になります。
バージョン日付台数ハードメモリ
バージョン11971/1110  
バージョン21972/66  
バージョン31973/24  
バージョン41973/1130  
バージョン51974/6   
バージョン61975/5 PDP-11/40 
バージョン71979/1 PDP-11/45,70 

・その他

 バージョン4のマニュアルには、

The most important changes result from a complete rewrite of the UNIX system in the C language.

と書かれており、バージョン4においてC言語を用いてUNIXが全面的に書き直されたことがわかります。


・解釈の必要な事項

 上記はドキュメントに明示的に示されている情報のみを書きました。
 1次資料には、ある程度解釈すれば情報を読み取れる箇所があります。私の解釈が入るという点で多少の任意性は生じますが、基本的にはまず問題は生じないであろうという点に絞って、その根拠とともに解釈できる内容をここで記述します。

 まず、インストールされた台数ですが、バージョン2,3のマニュアルには10台,16台と数が明記されているのに対し、バージョン4,5ではabove 20, above 50と書かれており、バージョン1,2においてはインストール台数を正確に把握していたが、バージョン3以降では正確な台数を把握していないことがうかがわれます。

 次に、対応ハードウエアですが、バージョン2のマニュアルには、

The assembler and loader have just undergone major reorganizations in anticipation of a UNIX for the PDP-11/45.

と書かれています。これは、11/45は、このマニュアルが書かれた時点で、まだ届いていないか、届いたばかりでPDP-11/45用のUNIXにはそれほど手が付けられていないかであることを示唆しています。
事実上、バージョン2ではPDP-11/45に対応していないと解釈してよいでしょう。

 バージョン3のマニュアルには、

any system which uses a PDP-11/20 processor will not include all the software described herein, nor will the software behave the same way. The second, or even the first, edition of this manual is likely to be more appropriate.

と書かれています。これは、バージョン3においては、PDP-11/20上ではそのままでは動かない可能性を示すもので、”will not”という表現は、彼ら自身がPDP-11/20上での動作確認を取っていないことを示しています。
事実上PDP-11/20は対応外と理解できます。

 バージョン6のsetupドキュメントには

In the run Shell file, the 11/45 code is commented out. If you have an 11/45 you must also edit (ed-I) the file /usr/sys/conf/m45.s to set the assembly flag fpp to reflect if you have the FP11-B floating point unit.

と書かれており、PDP-11/45もファイルを編集すれば対応できることが書かれています。
同ドキュメントには

The main difference between an 11/40 and an 11/45 (or 11/70) system is…

という記載もあり、PDP-11/70はPDP-11/45と同じ部類のものとみなされています。
この記述からは、PDP-11/45では動作確認が取れているが、PDP-11/70では取れていないと理解するのが妥当のように思えます。
また、Gordon Bell他著の"Computer Engineering"のP406にはPDP-11シリーズに関する以下の表が書かれています。
機種名 初出荷時期 メモリ搭載可能量
11/20 1970/6 8KB〜56KB
11/45 1972/6 8KB〜256KB
11/05 1972/6 8KB〜56KB
11/40 1973/1 16KB〜256KB
11/70 1975/3 64KB〜256KB
11/03(LSI-11) 1975/6 8KB〜56KB
11/04 1975/9 8KB〜56KB
11/34 1976/3 16KB〜256KB
11/55 1976/6 16KB〜64KB(半導体メモリの場合), 0KB〜192KB(磁気コアメモリの場合)
11/60 1977/6 32KB〜256KB
11/34C 1978/5 32KB〜256KB

 これによると、PDP-11/70は1975年3月の発売であり、バージョン6のマニュアルが書かれた1975年5月の段階では、動作確認が取れていないと考えるのが自然です。
しかしながら、マニュアルに明示的に示されていない以上確定的ではありません。

 このほか、バージョン2のマニュアルには、

None of these has exactly the same complement of hardware and software.

と書かれており、バージョン1がインストールされた10台は、どれ一つとして同じハードウエアではなく、個別に修正をかけてインストールされていたことが示唆されています。
全く同じ表現が、バージョン3,4,5のマニュアルに書かれており、バージョン4までは個別のハードウエアに合わせて修正を行ってインストールされていたということのようです。

 バージョン1,2,3のマニュアルには、

The rate of change of the system is so great that a dismayingly large number of early sections had to be modified while the rest were being written.

という愚痴めいた記述があります。
当時のUNIXの開発スピードは非常に速かったことがうかがわれます。

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