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完全放置な船の旅
かなり前の話になりますが、国内外をあちこち放浪したことがあります。
費用を抑えるため、移動は現地バスや鉄道などを使うことが多く、飛行機はあまり使いませんでした。
国境を電車や船で越えたこともあります。
エーゲ海を渡ってギリシャからトルコへ抜けたりと、いろいろな楽しい経験をしました。
今回は国内の船旅の話をします。これも結構前の話です。
夏休みの旅行といえば北海道が定番です。
ですが、安く北海道まで行きたいといっても、全部18切符で行くというものなかなかきつそうです。
どうしようかと思っていたところ、先輩が北海道にバイクでツーリングに行くため船を利用するという話を聞き、私も船で行ってみようと思い立ちました。
関西から北海道に船で行く場合には、敦賀に出てそこから苫小牧まで船に乗るというのが標準的なコースです。
しかし、行きも帰りも同じコースというのはつまらないので、行きは太平洋を行き、帰りは日本海でということにしました。
太平洋を行く船は、茨城県の大洗港から苫小牧に行きます。
この船には、夕方出発のものと深夜の12時ごろに出発のものがあり、朝に関西を出発すれば18切符を使って夜の8時ごろには水戸につけるため、深夜便を使うことにしました。
苫小牧につくのは翌日の夜の7:45です。
苫小牧港から駅までどうやっていくのかわかりませんが、バスくらいあるだろうと甘く考えていました。
で、この深夜便ですが、船室には、カジュアルルームという名前の相部屋と、デラックスクラスの個室の2パターンしかありません。
しかもデラックスクラスは2室のみというかなり変な構成です。
事実上、カジュアルルームのみのモノクラスです。
ちなみに、夕方便ですと、最上級のスイートからザコ寝までいろいろ選べますので、夕方便と深夜便でこれほど違うというのは、少々不思議な感じがします。
私は、デラックスなど使うはずもなく、当然相部屋で予約です。
当日は8時ごろに水戸駅に着き、バスで大洗港に行きます。
10時ごろにチェックインして、待合室でしばらく待った後に乗船します。
待合室にいる人が少ないのが気になります。
この手の船の場合、タラップを通って、受付のある明るいフロアーに行くことが多いのですが、この深夜便は変わっていて、タラップを通って乗船すると殺風景なコンクリートむきだしの壁にぶちあたります。
見ると、その左に狭い通路があり、そこを行くと車を乗せる広い空間があります。
その横にこれも殺風景な階段と、荷物を運搬するような殺風景なエレベータがあり、それで3階に上がり、そこからさらに通路を通ってようやくエントランスになるという構成です。
はっきり言って貨物船のノリです。
というより、貨物船に客室をあとから付けたという感じです。
これで、事実上モノクラスという意味が理解できました。
事実上業務用の貨物船ですので、優雅な船の旅を提供するというものではないのですね。
寝るスペースがあればそれでよいということなのでしょう。
レストランは、かつてはあったようですが、当時は営業をしておらず、その跡地の空間には椅子が置いてあって常時開放されていました。
冷凍食品の自動販売機と電子レンジ・給湯施設があり、自分で勝手にどうぞということになっています。
日本海便ですと、電子レンジはなく、給湯設備は一応あるものの、食堂でカップラーメンを食べてよい雰囲気はありません。
ところが深夜便は、まったくおかまいなし、持ち込み弁当でもカップラーメンでも堂々と食べられます。
また、日本海便ですと、ビンゴ大会や音楽会など楽しめる企画がいろいろあり、また、レストランも充実していますが、この太平洋深夜便はそういったものは一切ありません。
船内アナウンスなどもなく、乗組員も最小限しかいないのか、姿を見ません。
売店兼受付がありますが、営業時間は短く売る気もなさそうで、営業時間内でも臨時に閉まっていたりします。
とにかく、サービスなど皆無で、完全放置の世界です。
調べてみると、合理化船と呼ばれているらしいです。
ですが、これがなかなか良いです。
貨物船でほったらかしという世界は、ともすれば過剰サービスになりがちな現実から解放された心地よさがあります。
三陸海岸が見えたりと景色は悪くないですし、することがなくてヒマではありますが、どうせ毎日ヒマなのは同じです。
レストラン跡地には衛星放送を受信するテレビがありますが、なぜかほとんどのチャンネルが映らず、フジ系のチャンネルしか見られませんでした。
でも乗客放置の貨物船には、映るテレビなど似つかわしくありません。
ちなみに携帯はつながり、メールの送受信も可能でした。
陸地からの電波が拾えているようです。
船室は相部屋で、個室と異なりプライバシーはなく、部屋には水道もテレビもありませんが、まあそんなものでしょう。
デラックスクラスは2室だけありますが、レストラン跡地の隅にある扉を開けて入るので(たまたまデラックスクラスの乗客が入るのを見ました)、はっきり言って居心地は良くなさそうです。
船内に掲示されている地図を見ると、モノクラスといってもドライバーと書いてある区画があります。
右の写真は現在のフェリー会社のサイトにある深夜便の説明画像を加工したものです。
これにはドライバーという記載がなかったので、編集して書き足しています。
ドライバーって聞くとねじまわしとか、OSのドライバーとかを連想してハテナって感じになりますが、この区画に行ってみますとやたらと声が騒がしく、廊下に洗濯物がかけてあったりと雰囲気が違います。
壁を見ると張り紙がしてあって、この区画は大型トラックドライバー専用ですので、一般の乗客は立ち入らないで下さいと書いてあります。
そういうドライバーでしたか。
実際、そのあたりをうろうろしていると、ドライバーさんたちに横目でジロリと見られてしましました。
ドライバー区画を出てみると、入口に、立ち入りご遠慮という看板が立っていました。
ちなみに日本海便ですと、ドライバー区画は重い鉄の扉で仕切られた向こうにあり、探さない限りどこにあるかわかりませんが、太平洋深夜便ですと、普通に受付の真向かいにあり、扉もないので、ごく自然に入って行けてしまいます。
そんなこんなで、夜の7:45に到着なのですが、タラップをつけたりするので、8:00頃にならないと下船できないようです。
最後までこの船らしい対応です。
で、おりてみると駅に行くバスも何もありません。
港のインフォメーションカウンターで聞いてみると、バスの便はないのだとか。ううむ。
港に貼ってある地図を見ると、苫小牧駅まで4km程度ですので歩くことにしました。
スマートフォンなどない時代ですので、地図を頭にたたきこんで、出発です。
ですが、外に出ると真っ暗です。
適当にあたりをつけて駐車場を横切ると道に出ました。
北海道らしく道は広いのですが、街灯などなく真っ暗です。
歩道がしっかりしており、月明かりもありましたが、真っ暗な道を歩き続けます。
前方には信号すら見えません。
やや不安な気持ちになりながらも20分程度歩き続けると別の大きな通りにぶつかり、そこを曲がって歩き続けて、合計1時間程度で苫小牧駅に着きました。
道はとにかく暗いので、女性には駅まで徒歩で行くのはお勧めできません。
他に歩いている人など誰もおらず、駅近くなるまで路上に人は見かけませんでした。
その後、18切符で北海道をうろうろして、帰りは日本海便で敦賀に帰りました。
その話は、いつか別の機会にしたいと思います。