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VAX/VMSの思い出

 PDPシリーズを生み出したDEC社の黄金時代を築き上げたものがVAXというミニコンです。
PDP-11は大ヒット作でしたが、16ビットの限界が明らかになるにつれて、32ビットマシンの必要性が認識されるようになりました。
そのような背景のもと、PDP-11の後継として登場したのがVAXです。
当初はVAX-11という名称で、PDP-11の後継という位置づけでしたが、好評を博したため、全PDPシリーズをVAXに一本化することになりました。

 PDP-8に対応するローエンドから、PDP-10に対応するハイエンドまで、多くのシリーズを揃え、多様なニーズに対応できるようになっていました。
VAXは公式OSとしてVMSというものが付属しており、VAX/VMSと呼ばれることも多くありました。

 このVAXが大変な人気を得たため、DEC社の業績は過去最高となり、逆にVAXと競争できる機種を持たない他のミニコンメーカは次々と脱落することとなりました。
しかし、この大成功によってというべきか、DEC社はその後のUNIXワークステーションやパソコンの時代に取り残され、最終的にコンパック社に買収されます。
さらにその後、コンパック社がヒューレットパーッカード(HP)社に買収されます。
このため、VAXに関する情報は、現在はHP社のページが本家ということになっています。

 それによると、VAXは1987年までに10万台が売れたということです。

 ちなみに、WikipediaにはVAXは40万台が売れたと書かれていますが、根拠は示されていません。
DEC社のマシンの売り上げに関してよく引用されるD.Miller著の“OpenVMS Operating System Concepts” p467に、”>400,000”と書かれていますが、こちらにも何の参考文献も示されておらず、やはり根拠は不明です。
HP社のページに示されている、10万台を売り上げた1987年までというのはVAXの黄金時代であり、それ以降はUNIXワークステーションに少しずつ浸食されていく退潮期になります。
特に、VAXのシリーズのうちで、台数の稼げるローエンドモデルは早い時期からUNIXワークステーションに浸食されていたようです。
1992年には、業績不振の責任を取る形で、DEC社の創業者であり社長であり続けたケン・オルセン氏が社長を辞任しています。
このことからすると、1988年以降に30万台が売れて合計で40万台を売り上げるというのはかなり不自然です。

 おそらく、VAXの売り上げ台数は10万台〜20万台の間であり、40万台というのは間違いだろうと思います。

 DEC社は消滅しましたが、その功績は大きく、PDPシリーズではインタラクティブなコンピュータが普及し、VAXの公式OSであるVMSはWindowsの原型になり、UNIXはその開発当初の8年間はDEC社のマシンでのみ動くOSでした。
また、現在のWindowsのコマンドプロンプトで使うDIRやCOPYといったコマンドは、もともとはPDPシリーズのOSで使われていたコマンドで、これをまねてゲーリー・キルドールという人物がCP/Mというパソコン用OSを作ったものが現在まで引き継がれているものです。
現在当たり前に使われているコンピュータ関連技術の多くはDEC社が築き上げたものと関連するといっても過言ではありません。

 さて、前置きが長くなりましたが、私は、PDPは見たことも触ったこともないのですが、VAXは少しだけ使ったことがあります。
大学生時代、学科の建物の中庭のようなところに実験設備があり、そこで徹夜で実験することがありました。(当時は、大学の正規の科目で徹夜で実験が行われることは当たり前でしたが、ゆとりなどと言われる現在ではどうなのでしょうか。)
その実験設備に置いてあったのがVAXでした。
VAXマシンの大きさは小型冷蔵庫くらいで、東横インなどのビジネスホテルの客室においてある冷蔵庫と同程度の大きさと思ってもらえればわかりやすいと思います。

 Windowsパソコンと異なり、重厚な雰囲気を醸し出しているマシンは一種独特でした。

 この実験設備を用いる実験においては、結果が出るまで待っている時間が結構あり、その間にそのVAXをいじって遊ぶことができました。
当時、VAXは時代遅れとなっており、性能的にUNIXワークステーションに劣るものでした。
それでもWindowsパソコンよりは高性能であったと思います。

 当時の実験環境では、ある程度の数値処理を行う際にUNIXワークステーションを使っていましたが、その結果UNIXワークステーション上では常に多くのジョブが動いており、計算結果が出るまでに時間がかかりました。
一方VAXは見捨てられたマシンとなっており、OSであるVMSがUNIXとかなり異なることもあって、ほとんど誰も使っていない状態でした。
待ち時間に、VAXでいろいろ遊んでいると、マシン自体の性能は高くないものの、誰も使っていないため、結果的にVAXを用いたほうが計算が早く終わることがわかりました。
以降は事実上自分専用のマシンのようにVAXを使い、多くの作業を効率的に行うことができました。
メールなどのインターネットに対応した機能もあり、日本語も扱えました。

 こうして、喜んでVAXを使っていたのですが、そんな時代も長くは続きませんでした。
あるとき、VAXの管理者から連絡があり、もうVAXは古いマシンでありメンテナンスが割に合わないので破棄すると言われました。
当時は事情は知らなかったのですが、VAXの開発元であるDEC社が存在しない状況においては、今後のサポートが不安という判断もあったようです。

 こうして、VAXを使うことができなくなり、VMSというVAX公式OSも、以降は一度も触れることはありませんでした。
私がDEC社の製品を触ったのはVAX/VMSが最初で最後です。
そんなわけで、個人的に、VAX/VMSには青春時代の甘酸っぱい思い出のようなものを感じる側面があります。

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