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ビル・ゲイツ初期の経歴を再検証 --- Part27

・CCC社とビル・ゲイツはどこでつながったのか

 これについては、以下のような記述があります。
P36:この企業の創設者の1人で、科学プログラマ主任であるモニク・ロナには、レイクサイド・スクールの8年生に在籍する息子がいた。ゲイツと同学年である。ロナは、この学校のテレタイプマシンのことや、学校がゼネラル・エレクトリック社からコンピュータタイムを買っていることを知っていた。ロナの会社のセールスマンがレイクサイド・スクールを訪れて、担当者にCキューブド社からコンピュータタイムを買わないかと売り込んだ。

P36: ゲイツと数人の少年たちは、Cキューブド社のPDP-10のソフトウェアには、「イカシた」プログラムが山ほど隠されていることを発見した。

P36: すぐに、コンピュータの請求書は何百ドルにも跳ね上がった。
とあり、1次文献と同じく、母親の関係でCCC社とつながったことが書かれています。

 ただ、この周辺に書かれている内容の時系列には、1次文献と一致しないものがあります。
P36:「子供たちは時間に飢えていた」と、Cキューブド社の創設者の1人、ディック・ウィルキンソンは回想する。

P37:ゲイツとその他2、3人がPDP-10のセキュリティシステムを破って、Cキューブド社の会計ファイルにアクセスしてしまった。自分たちへの請求書を見つけて、コンピュータを使用した時間をかなり減らしてしまったのだ。

P37: 「私たちは、6週間、システムの使用を禁止する、と彼らに申し渡した」とウィルキンソンは語る。

P37: しかし、その後まもなく、ゲイツはCキューブド社にとって、それ以上の問題児となった。

P38: ゲイツは数日にわたって数回、自分のプログラムをロードしようとした。そのたびに、Cキューブド社のコンピュータは故障してしまうのだった。

P39:「われわれには、PDP-10の信頼性に問題があることはわかっていた」と、Cキューブド社で働いていたプログラマー、スティーブ・ラッセルは回想する。

P39:Cキューブド社は、ゲイツらのレイクサイド・スクールのコンピュータ中毒者に、システムをクラッシュさせてみる機会を提供した。交換条件として、彼らは無料で欲しいだけコンピュータタイムをもらった。夕方と週末、正規の顧客がコンピュータをオフにした後、Cキューブド社にやってきて、システムにログオンし、楽しむだけでよいのである。たった一つ必要な条件はといえばそれはシステムのクラッシュを引き起こした「バグ」を残らず入念に記録することだった。

P44: Cキューブド社は、1969年後半に経営が逼迫し始め、1970年3月に倒産してしまった。


 以上の記述からすると、
・学校でPDP-10が使えるようになる
・学校がCCC社のPDP-10を使うように契約しなおし、CCC社のPDP-10を有料で使うようになる
・PDP-10の使用権が一時停止される
・使用再開後、ビル・ゲイツがコンピュータをクラッシュさせる
・CCC社のコンピュータを無料で使えるようになる
・CCC社が倒産する

という時系列になります。CCC社の倒産の時期以外は、個々の事象の時期は書かれていないのですが、1次文献と対照させると以下の表のようになります。

月・時期 1次文献 本2次文献
1968 レイクサイドスクールでGE-635のコンピュータが使えるようになる レイクサイドスクールでPDP-10のコンピュータが使えるようになる
11月 CCCのPDP-10が無料で使えるようになる レイクサイドスクールがCCCのPDP-10を有料で使う契約を結ぶ
1969 1月
2月 CCCのPDP-10の使用が有料になる
3月〜5月 CCCのコンピュータを有料で使う
6月ごろ CCCのPDP-10の使用が禁止される 請求書の改ざんが見つかり、CCCのPDP-10の使用が禁止される
7月ごろ コンピュータから遠ざかる CCCのPDP-10が再び使えるようになる
7月末ごろ (正確な時期不明)ビル・ゲイツがCCCのPDP-10をクラッシュさせる
(正確な時期不明) CCCのPDP-10を無料で使えるようになる
8月
9月 CCCのPDP-10を再び使えるようになる
10月・11月 CCCのPDP-10を有料で使う
12月ごろ
1970 1月・2月
3月 CCCが経営破綻 CCCが経営破綻

 時系列の順序がかなり異なっていることがわかります。

 本書籍の文中にある、ウィルキンソンらの発言を見ると、時期が発言内に書かれてはおらず、個々の発言自体は1次文献と大きく矛盾していないことがわかります。
 この本の著者は、個々のインタビューの発言をつなぎ合わせて、整合性が取れるように時系列に並べたストーリーを作り出したと思われます。

 確かに、CCC社での実績がない人物がいきなりコンピュータを無料で使えるようになるという話よりは、有料である程度使ってから無料で使う機会が提供されたと考えるほうが自然に思える部分があります。

 しかし、当事者であるポール・アレンの記述とは異なるわけで、ここはポール・アレンの1次文献の方が正しいとする方が妥当と思います。

 ということは、この箇所以外にも、本書籍には、著者がストーリーを作っている部分があるかもしれません。

 この他にも、本書籍には、細かいところで1次文献と一致しない記述があります。
P37:ゲイツとその他2、3人がPDP-10のセキュリティーシステムを破って、Cキューブド社の会計ファイルにアクセスしてしまった。自分たちへの請求書を見つけて、コンピュータを使用した時間をかなり減らしてしまったのだ。
という箇所は、会計ファイルにアクセスしたという部分は1次文献と一致する内容ですが、請求書を改ざんしたという部分は1次文献と一致しません。

 1次文献では、会計ファイルを見つけはしたが、暗号化されていて、何もできずに発覚したことが書かれています。
これは、ポール・アレンが自分が犯罪のようなことをしたことを書きたくなかったという可能性もなくはありませんが、会計ファイルを簡単に書き換えられたというのも不自然ですので、何もできずに発覚したというのが事実なのではないかと思います。

 また、
P37:「私たちは、6週間、システムの使用を禁止する、と彼らに申し渡した」とウィルキンソンは語る。
の箇所では、禁止期間が6週間となっており、1次文献から読み取れる4カ月程度と一致しません。
 これは、こういう場合には処罰を与えた側よりも処罰を受けた側の方が記憶が鮮明であることや、インタビューの時期が事実があった時から15年以上経過しており、記憶の確かさに疑問が残ることなどから、ポール・アレンの書籍にある通り4カ月程度というのが正しいものと思われます。


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