DECのPDP-1は価格破壊をもたらしたミニコンピュータだったのか---Part6

　 ・PDP-1はミニコンピュータなのか

　第五の疑問である、PDP-1はミニコンピュータと言えるのかという点を検証してみます。

　まず、一次資料内で、PDP-1をミニコンピュータと呼んでいるものは見つかりません。

　また、http://pdp-1.computerhistory.org/pdp-1/ にあるPDP-1の写真(写真のコピー)を見る限り、PDP-1はIBMのメインフレームのように部屋全部を占領してはいないものの、壁一面をふさぐくらいの大きさはあることがわかります。 同時期のIBM1401について、http://www.computerhistory.org/atchm/about-the-computer-history-museums-ibm-1401-machines/にある写真と見比べると、1401の方が小さく見えます。

　ミニコンピュータという言葉がどのあたりで出てきたかを調べてみると、“Computer Engineering”のP241に

Historically, Digital Equipment Corporation’s (DEC) PDP-8 family, with 6000 installations has been the archetype of these minicomputers.

　PDP-8 began the minicomputer phenomenon

　また、“A History of Modern Computing”のP130には

The PDP-8’s success, and the minicomputer phenomenon it spawned

“Minicomputer” was catchy, it fit the times, and it gave PDP-8 an identity.

http://research.microsoft.com/en-us/um/people/gbell/Digital/DEC%201957%20to%20Present%201978.pdfのP6には、

“minicomputer” (small in physical size; word-length under 16 bits; selling in minimum configuration for under $20K).

　このことから、ミニコンピュータと言われるようになったのはPDP-8からであることが分かります。

　このPDP-8がどういうコンピュータであったかというと、それまでのPDPシリーズと比べるとかなり小さいものであったようです。
“A History of Modern Computing”のP133に

The computer occupied eight cubic feet of volume and weighed 250 pounds.

It could be placed on top of a lab bench

　次に、PDP-8の価格ですが、“Computer Engineering”のP198にあるTable 2に、4Kワードのメモリ付きで16,200ドル、ターミナル付きで18,000ドルと書かれています。
これはPDP-1の12万ドルと比べると1桁安く、企業の一部署や大学の研究室で購入できるレベルといってよいでしょう。
同箇所には発売開始が1965年の4月であることも書かれています。

　このように、ミニコンピュータという言葉が使われるようになったのは1965年のPDP-8に対してからであり、「破格の安さで企業の一部署でも導入できる」という状況はPDP-8で実現されたものであることが分かります。
PDP-1の発売から5年後です。
DECが市場から一定の信頼を得るのに必要な時間でもあったのかもしれません。

　ミニコンピュータと言う言葉がどこから出てきたのかははっきりとはわかっていません。
“A History of Modern Computing”のP135には

The miniskirt happened to come along (from Britain) at the time PDP-8 was beginning to sell,

　最終的に、PDP-1はミニコンピュータではないということになります。
PDP-1を、企業の一部署でも購入できる画期的なミニコンピュータであったと記述している文献は、PDP-8に関する情報をPDP-1に混在させてしまったものと見られます。