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PDPシリーズはどれくらい売れたのか---Part2

・参考資料

 一次資料とする参考資料ですが、以下の二つとします。
G.Bell et.al., Computer Engineering, A DEC view of hardware systems design, Digital Press,1978.
Computers and People, Edmund C. Berkeley and Associates, 1974
Computers and People”は、“Computers and Automation”が名前を変えたものです。
さらに、補助資料として
http://research.microsoft.com/en-us/um/people/gbell/Digital/DEC%201957%20to%20Present%201978.pdf を用います。

 これ以外の書籍やWikipediaは一次資料としては利用しません。
ネット上の情報を参考にする場合には、URLを明示してその内容を引用はするものの、あくまでも参考であり、判断に用いる確定的な情報としては扱いません。


・“Computer Engineering”の記載内容

 まず、
G.Bell et.al. Computer Engineering, A DEC view of hardware systems design, Digital Press,1978.
から読み取れる情報を。18bit系列、12bit系列、16bitのPDP-11, 36bit系列の順に見ていきます。

 18bit系列については、P165とP166のTable 5に以下の情報が書かれています。
機種名製造台数発売時期価格
PDP1501960/11120,000ドル
PDP-4451962/765,500ドル
PDP-71201964/1245,000ドル
PDP-9&PDP-9/L4451966/825,000ドル
PDP-157901970/219,800ドル

価格は4Kワードのメモリと、テープリーダー・パンチタイプライターをセットにした時のものです。
このうち、PDP-1に関しては、以前に書いたように、価格として250,000ドルと書かれている箇所があるほか
http://research.microsoft.com/en-us/um/people/gbell/Digital/DEC%201957%20to%20Present%201978.pdf には53台売れたと書かれていますが、以前に述べたとおり、ここでは50台程度売れ、価格は最低価格の120,000ドルとしておきます。

また、同書P168には、

$65K for a PDP-9
early PDP-15 systems were sold at an average price of $75K
と書かれています。
これらは、上記の記述と一致しませんが、PDP-1の場合と同様に、最低価格と、現実的に使う際にいろいろなオプションを付けたときの価格と思えば不自然ではないです。
この時代には、最低販売価格と現実に購入された価格とで3〜5倍程度の開きがあるのは普通です。

 PDP-4は価格がPDP-1の約半額と安いのに、売り上げは45台とパッとしない数字です。
これについては、同書P147に

The PDP-4 was a limited success. While it met the corporate profit standard, it did not sell as well as had been expected. The market was not elastic as they had been for PDP-1, and 5/8 of the performance for 1/2 the price was not good enough.…In summary, PDP-4 was not aggressive enough in performance and in price.,
と書かれています。
価格性能比でみる限り、取り立てて長所がない製品だったということなのでしょう。

 PDP-8系列の12bitコンピュータについては、P181に

The PDP-8, which was first shipped in April 1965, and the other 8-Family machines that followed it achieved a production status formerly reserved for IBM computers, with about 50,000 machines produced, excluding the CMOS-8 based computers.
とあります。
CMOS-8 based computerというのはPDP-8のCPUを1個のチップで実現した製品のことで、VT-78などの端末やDecmateなどの実質的なワープロ機のことです。
(今ではCPUといえば1個のICのことですが、PDP-8の初期型ではトランジスタやダイオードを使い、後期のPDP-8ではロジックICを組み合わせて複数の基板でCPUを実現していました。)

 この5万台という数値が“OpenVMS…”を始めとした多くの文献における出典のようです。
ところが、同書のP121には

In April 1965, the first PDP-8 was delivered. This machine and the 40,000 PDP-8s that followed.
と4万台と書かれています。
一応後者は最初のPDP-8を含まない数値と読めますので、矛盾はしていませんが、これについては後ほど議論します
また、同書P241には、
Historically, Digital Equipment Corporation’s (DEC) PDP-8 family, with 6000 installations has been the archetype of these minicomputers.
と6000という数字が挙げられています。
これは前後の文脈からみて、PDP-11が企画された1968年ごろまでの売り上げと見られます。

 PDP-8の発売時期と価格については、P198のTable 2に1965/4発売、4Kワードのメモリ付きで16,200ドル、端末付きで18,000ドルと書かれています。
その後モデルチェンジとともに価格は下がっていき、たとえば、1971/3発売のPDP-8/Eでは、4Kワードのメモリ付きで、4,990ドルと書かれています。
なお、P203のTable 3には、PDP-8/EのConfiguration costが書かれていますが、最小コストが5000ドル、平均コストが10,000ドル、キャッシュ付きの最高コストで40,000ドルとあり、最低価格と最高価格で8倍の差があります。
上でPDP-15に関して、この時期のコンピュータでは最低価格と実際に使うシステムの価格とでは開きがあると書いたことの証左になっているといえます。

なお、PDP-5はPDP-8に先立つ12bitコンピュータで、同じ箇所に1963/9発売、4Kワードのメモリ付きで25,800ドルと書かれています。
PDP-5の売り上げは書かれていませんが、P179に

 While the PDP-5 had been a reasonably successful computer
と書かれています。

 PDP-12については、P176のTable 1に1969/6発売、最小価格28,100ドル、売り上げ台数1000台と書かれています。

 16bitのPDP-11については、この書籍内に総売り上げ台数は書かれていません。
そもそも、この書籍が出版された1978年にはPDP-11はまだ現役で販売されていたため、総売り上げ台数が掲載されていたとしても、あくまでも1978年までのものということになります。
PDP-11の発売時期は、P406のTable 6に初期型のPDP-11/20が1970/6発売と書かれています。
価格については、P8に

the 4,094-word PDP-11/20 (mounted in a box) sold for $9,300.
と書かれています。
 なお、http://homepage.cs.uiowa.edu/~jones/pdp8/faqs#PDPや、これを引用したとみられる、多くのサイトでは、PDP-11の価格を10,800ドルとしています。
この違いはどこから来るのでしょうか。
 一次資料とはしておりませんが、http://www.vintagecomputer.net/digital/PDP11-20/PDP11_Price-List_19691215.pdfに、PDP-11の価格表があります。
これは、DEC自身が出したもののように見えますので、一次資料として扱ってよいかもしれませんが、これ自体が本物かどうかが完全な確証が持てないので、一応一次資料からは外しています。
これによると、PDP-11/20は、プロセッサ+4Kワードのメモリ+コンソール+電源+ターミナル(テレタイプ端末)のセットで10,800ドルと書かれています。
テレタイプ端末自体は1,500ドルと書かれています。
PDP-11/20発売時点のものではありませんが、1971年の価格表がhttp://www.village.org/pdp-11/faq.pages/pricing.pdp11-20-aug-1971.html(2017/3/6 サイトが消えているため、インターネットアーカイブのURLに変更)にあり、このPage 1Page 3にまったく同じ数値が出ています。
 テレタイプ端末は、今のパソコンでいえば、キーボード+ディスプレイに相当します。
これを除くと、10,800-1,500=9,300ドルとなります。
つまり、本体価格は9,300ドルということです。
今でもデスクトップパソコンの価格にはディスプレイやキーボードは含めないのが普通でしょうから、ここでは、9,300ドルを採用したいと思います。

 36bitのPDP-6, PDP-10の36bitシリーズについては、P514のTable 7にPDP-6が1964/6発売、PDP-10であるKA-10が1967/9発売と書かれています。
このTable 7にはコンピュータシステムとしての価格は書かれていませんが、プロセッサだけの価格として、PDP-6で120,000ドル、KA10で150,000ドルと書かれています。
PDP-6のコンピュータシステムとしての価格は、P491のTable 1に、300,000ドルと書かれています。
PDP-10のコンピュータシステムとしての価格は正確な数値では書かれていませんが、P517のFigure 9からは、KA-10で500,000ドル、後期型のKL10では1,000,000ドルと読み取れます。
他のPDPシリーズと異なり、PDP-10の系列は後に発売されたものほど高額になっていくのが特徴です。

 PDP-6の売り上げについては書かれていません。P489には、

The series evolved into five basic designs (PDP-6, KA10, KI10, KL10, and KL20) with over 700 systems installed by January 1978.
と書かれており、PDP-6とPDP-10を合わせて、1978年1月までに700台以上売れたということです。
PDP-10は1978年時点でまだ現役で売られていましたから、最終的な売り上げはもう少し多いはずです。

 以上をまとめると、以下の表3のようになります。
機種名製造台数発売時期価格
PDP-1501960/11120,000ドル
PDP-4451962/765,500ドル
PDP-5不明1963/925,800ドル
PDP-6不明1963/3300,000ドル
PDP-71201964/1245,000ドル
PDP-840,000または50,0001965/416,200ドル
PDP-94451966/825,000ドル
PDP-10700以上(PDP-6との合計)1966/1500,000ドル
PDP-11不明1970/69,300ドル
PDP-1210001969/628,100ドル
PDP-157901970/219,800ドル
表3. “Computer Engineering”に記載されている内容

 なお、この書籍に記されているのは製造台数であり、それが販売台数と厳密に一致しているかどうかは不明です。


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