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PDP-8ですが、すでに述べたように、“Computer Engineering”において、4万台という記述と、5万台という記述が混在しています。
また、表4でわかるように、“Computers and People”にあるPDP-8の全機種の合計は2万台弱です。
これは1974年出版の雑誌であり、1973年ごろの集計結果と思われますので、その後もPDP-8シリーズは売れ続けたでしょうから、かなりの上積みはあるにせよ、“Computer Engineering”が出版される1978年までに5万台に達するのは少々難しい感じです。
“Computer Engineering”でのPDP-8に関する記述をみると、P181に
The PDP-8, which was first shipped in April 1965, and the other 8-Family machines that followed it achieved a production status formerly reserved for IBM computers, with about 50,000 machines produced, excluding the CMOS-8 based computers.とあり、P121に
In April 1965, the first PDP-8 was delivered. This machine and the 40,000 PDP-8s that followed.とあります。
A number of PDP-14s were built and installed for the intended applications over the period 1970 to 1972.と書かれており、PDP-14の売れ行きは良かったようです。
あくまで推測ですが、初代のPDP-8を除くPDP-8シリーズが43,000台程度売れていて、初代のPDP-8と他の12bit系のものと合わせれば48,000台程度という感じかもしれません。
最終的に確定的なことは言えないので、PDP-8の売り上げ台数は、4万台〜5万台の間ということになります。
多くのWebサイトにあるように、単純に5万台と言ってしまうのは正しくないかもしれません。
なお、WikipediaのPDP-8の項目には、「PDP-8ファミリーの総売上台数は300,000台を超えると推定されている。」と書いてあります。
30万というのはずいぶん多い感じです。
Wikipediaのこの記述の後には、30万台という数字にはPDP-12が含まれていることが書かれています。
また、“Computer Engineering”のP181ページに書かれている5万台という記述の箇所には
excluding the CMOS-8 based computersと書かれているのに対し、Wikipediaの同項目ではCMOS-8のチップを利用したVT-78やDecmateが含まれていることを考えると、端末やワープロ機をすべて含めれば30万台になるという風に読めなくはありません。
この30万台の出所を探ってみると、Computer World誌の1975年12月号に、DECの社長であるケン・オルセン氏が語った内容が見つかりました。
A 4K DEC PDP-8 that sold for $16,000 in 1965, for example, today sells for only $2000. Estimates show that some two million U.S.-manufactured microprocessors and 300,000 minicomputers will be installed throughout the world by 1976, he said.とあります。この最後のheとはケン・オルセン氏のことです。
これからわかることは、30万台というのは、1976年までに全世界で販売されるミニコンピュータの総売り上げ台数予測であることです。
30万台という数字には、PDP-8以外のDEC製ミニコンやDEC以外のミニコンピュータがすべて含まれています。
これがPDP-8に関する記述の直後にあることから、PDP-8自体の売り上げが30万台と推測されるという誤解が出てきたのではないかと思われます。
つまり、PDP-8を含むDECの12bit系列マシンが30万台売り上げたというWikipediaの記述は事実ではないと思われます。
PDP-9については、表3にある“Computer Engineering”では445台、表4にある“Computers and People”ではPDP-9とPDP-9/Lを合わせて476台となり、食い違いがあります。
“Computer Engineering”の方はPDP-9だけの台数を数えているのかとも思いましたが、同書P165のTable 5を見ると、該当箇所はPDP-9;9/Lと書かれているので、PDP-9とPDP-9/Lの合計台数と判断できます。
これは正確には製造台数であり、売り上げ台数ではありませんが、“Computers and People”の方は販売台数の集計結果ですので、製造台数よりも販売台数の方が多いというのは変です。
これについては、差異を説明できる資料やデータを見つけることはできませんでした。
従って、だいたい450台前後ということしか言えないと思います。
PDP-10は、表3にある“Computer Engineering”では700台以上、表4にある“Computers and People”では300台となっており、かなり差があります。
PDP-10は“Computers and People”の集計がされたとみられる1973年の時点では現役で売れ続けていたので、差が出ること自体は不自然ではないです。
PDP-10の最終型であるKL10が出たのが1975年であることを考えると、“Computers and People”の集計年である1973年と、“Computer Engineering”の出版年である1978年の間の5年間に、400台が売れたとすると、1年あたり80台が売れたということになり、それほど不自然な数字ではありません。
“Computers and People”の前年に出版されている“Computers and Automation and People”によると、PDP-10の売り上げは250台となっており、1年間で50台増えていることになります。
1975年に新型が出ていることを考えると、基本的に売り上げはその後も好調であったと推測され、平均で1年あたり80台程度売れても不自然ではありません。
なお、PDP-10は、“Computer Engineering”が出版された1978年以降も現役のマシンであり、ある程度売れ続けたとみられるため、最終的な売り上げ台数は700台よりもさらに上積みされるものと思われます。
しかし、それが何台程度なのかは資料がないためわかりません。
以上から、PDP-10の売り上げ台数は700台以上ということにしておきます。
・PDP-11PDP-11については、以前に取り上げましたように、10万台程度の売り上げと見られます。
・PDP-12
PDP-12については、表3にある“Computer Engineering”では1000台、表4にある“Computers and People”では725台となっています。
“Computer Engineering”のP176にあるTable 1によると、PDP-12は1975年の6月まで生産されています。
“Computers and People”の前年に出版された“Computers and Automation and People”によると、PDP-12の売り上げは620台となっており、1年間に105台が上積みされたことになります。
このペースを維持したとすると、“Computers and People”のデータが集計されたとみられる1973年以降の2年間で210台が上積みされて、総売り上げ台数は935台となり、1000台に近い数字になります。
ぴったり1000台というわけではないでしょうけれど、大体それくらいの売り上げ台数であったとみてよさそうです。
http://homepage.cs.uiowa.edu/~jones/pdp8/faqs#PDPにある表のデータは、ほとんどが“Computer Engineering”からの引用である中で、PDP-12については“Computers and People”のデータを用いています。
これは、おそらく、“Computer Engineering”のP176ページのTable 1において、PDP-12と併記されているLINCとLINC-8については、売り上げ台数が50, 143台と1桁目まで詳細に書かれているのに対し、PDP-12については1000台と大雑把な数値が記されていることに疑問を抱いたからだろうと思われます。
しかしながら、725台という数値は1973年の集計時点におけるものであり、1975年まで生産され続けたPDP-12の総売り上げ台数の数値としては適切ではありません。
以上から、PDP-12の売り上げは1000台程度としておきます。
・PDP-15
PDP-15については、表3にある“Computer Engineering”では790台と書かれており、表4にある“Computers and People”では625台と書かれています。
“Computer Engineering”のP165にあるTable 5によると、PDP-15は1970年2月に発売されており、“Computers and People”のデータが集計された1973年の時点では、現役で売れている製品です。
実際、http://research.microsoft.com/en-us/um/people/gbell/Digital/DEC%201957%20to%20Present%201978.pdfによると、1973年には、PDP-15/76という機種が発売されています。
“Computers and People”の前年に出版された“Computers and Automation and People”によると、PDP-15の売り上げ台数は545台となっており、1年間で80台が売れたことがわかります。
1973年に新型のPDP-15/76が発売されていることと、このPDP-15/76がPDP-15の最後の機種であることを考えると、“Computer Engineering”が出版された1978年までの売り上げ台数が790台というのは、おおむね妥当と思われます。
以上をまとめると、下の表7になります。
文献による差異などを考えると、確定的な数値を出すのは難しいですが、おおかたこれくらいという程度のことは言えそうです。
また、発売年は表3の“Computer Engineering”と表4の“Computers and People”とで1ヶ月程度の差があり、月まで特定して確実なことは言えません。
ただし、表4にある、PDP-15の発売時期が1961/2というのは、明らかに1970/2の間違いです。
価格については、“Computers and People”には記載がないので、1次資料から読み取れるデータとしては、表3にある“Computer Engineering”が唯一のデータです。
1次資料ではないものと比較するとhttp://homepage.cs.uiowa.edu/~jones/pdp8/faqs#PDPとはかなり違っていますが
以前にも述べたように、付属品をどうするかで3〜5倍くらいは違うのが普通ですので、それほど大きな差ではないと言えます。
ただ、http://homepage.cs.uiowa.edu/~jones/pdp8/faqs#PDPにあるPDP-6の価格30万ドルは、“Computer Engineering”を見る限り、コンピュータシステムとしての価格を記載していると判断できるのに対し、PDP-10の11万ドルという価格はプロセッサだけの価格を書いているようです。
同じ36bitシリーズに対してこのような異なる基準での比較は不適切です。
ここでのPDP-10の価格は、表3にあるように50万ドルとするのが妥当です。
機種名 | 売り上げ台数 |
---|---|
PDP-1 | 50程度 |
PDP-4 | 45 |
PDP-5 | 100程度 |
PDP-6 | 23 |
PDP-7 | 100程度 |
PDP-8 | 40,000〜50,000 |
PDP-9 | 450程度 |
PDP-10 | 700以上 |
PDP-11 | 10万程度 |
PDP-12 | 1,000程度 |
PDP-15 | 790 |