トップ よくある質問 作者ブログトップ お問い合わせ・ご注文

PDPシリーズはどれくらい売れたのか---Part4

解釈

 ここまでに得られたデータを解釈してみます。
ここまでは、資料に書かれているものを整理しただけで客観的データを提示してきましたが、今回は私の解釈が入ります。

・PDP1とPDP-4

まず、PDP-1, PDP-4については、“Computer Engineering”の表3と“Computers and People”の表4の内容とが一致しています。
補助資料である
http://research.microsoft.com/en-us/um/people/gbell/Digital/DEC%201957%20to%20Present%201978.pdf の内容である表6だけが、PDP-1が53台、PDP-4が54台と異なっています。
PDP-1については以前に論じましたが、“nearly all 53 PDP-1’s are still in use,”という表現でわかるように、53というのは、売れた数でなく、使われている数であり、プロトタイプを寄贈したものも含むこと、および、nearlyという表現がされていることから、50台のほうがより確からしく、50台程度と判断するのが妥当そうです。

 PDP-4については、前々回に取り上げた“Computer Engineering”内に書かれている記述のほか、P147に

There is an additional reason for the poor financial showing of the PDP-4.
と書かれており、売れ行きが良くなかったことがわかります。
そこからすると、PDP-1よりも少ない45台のほうが妥当なように思えます。
補助資料のApproximately 54 PDP-4’のApproximatelyという表現も気になります。
54は単純に45のタイプミスではないかと思います。

・PDP-5

 次にPDP-5ですが、“Computers and People”に書かれている100台以外に一次資料にデータがありません。
よって100台とします。
ちなみに、一次資料ではありませんが、“OpenVMS…”では、表1にあるようにPDP-5の売り上げ台数を1000台としています。
また、http://homepage.cs.uiowa.edu/~jones/pdp8/faqs#PDPでは、 表2にあるように、PDP-5の売り上げ台数を1000台としていますが、同じページの下のほうでは115台となっています。
この1000台という数字と115台という数字のいずれも根拠が示されておらず、他の資料で確認できるものは見つかりませんでした。
115台のほうは100台とあまり変わらないといってもよいでしょうが、1000台という可能性はあるのでしょうか。

私は1000台という可能性はないと思います。
根拠は二つあります。

第一の理由は、1000台も売れたなら大ヒットであり、シリーズ化したはずであることです。
DECは、PDP-8,PDP-11などの初代製品がヒットしたものは、PDP-8/E, PDP-11/45などのようにPDPシリーズとしての番号を維持したまま後継製品を出しています。
これに対し、PDP-7などの、それほど売れたという感じでもないものは、後継製品をPDP-9のように別番号にしています。
表4にある“Computers and People”に書かれている初代PDP-8の売り上げ台数は1402台です。
しかも、“Computer and Engineering”のP198にあるTable 2によると、PDP-5は1963年9月発売で、後継製品である初代PDP-8は1965年4月発売、その後継製品であるPDP-8/Iは1968年4月発売ですので、PDP-5の実質的製品寿命は19カ月、PDP-8の実質的製品寿命は36カ月ということになり、この期間差を考えると、PDP-5が1000台も売れたのなら、PDP-8よりよく売れたということになります。
PDP-5が全くシリーズ化されなかったという事実は、売り上げが1000台よりずっと少なかったことを示していると思います。

 第二の理由は、“Computer Engineering”のP179に、PDP-5について、

 the PDP-5 had been a reasonably successful computer
と書かれていることです。
"reasonably successful"という微妙な表現は、「それ以前の機種よりは売れたものの、よく売れたともいえない」というニュアンスです。
ちなみに、売れなかったと言ってよいPDP-4に関しては、同書P147に
 The PDP-4 was a limited success.
と書かれています。
PDP-5が1000台も売れたのであれば、単純にsuccessと書けばよいわけで、reasonablyなどという副詞は不要なはずです。
これらのことからすると、PDP-5が100台売れたとすれば、それ以前のPDP-1, PDP-4の倍は売れているわけで、よく売れたとは言えなくとも、それなりではあるわけで、reasonably successfulという表現に合致すると思います。

 以上から、PDP-5の売り上げは、ぴったり100台かどうかはわかりませんが、100台程度と解釈してよいと思います。

・PDP-6

 続いて、PDP-6ですが、“Computers and People”の記述と、http://research.microsoft.com/en-us/um/people/gbell/Digital/DEC%201957%20to%20Present%201978.pdf の記述がいずれも23台で一致するので、23台としてよいでしょう。

・PDP-7

 PDP-7については、表3にあるように“Computer Engineering”では120台となっているのに対し、表4にある“Computers and People”では100台となっています。“Computers and People”の出版は1974で、“Computer Engineering”の出版は1978年で、時間差がありますが、1964年発売のPDP-7は、後継製品であるPDP-9が1966年に出ていることを考えると、1973年には製品寿命が終わっており、1974年から1978年までに、120台と100台の差である20台が売れたと考えるわけにはいきません。

 20台の差とは言え、これは一次資料間での食い違いであり、検討を要します。
一次資料からは、この差異を説明する明確なデータは得られません。
一次資料ではありませんが、http://www.soemtron.org/pdp7.htmlにはPDP-7のシリアル番号を調査した結果が出ています。
この末尾の注釈2に

Various information sources on both the internet and in literature gives the total sales of the PDP-7 systems as 120 units, in our research however we have not found any definitive information to substantiate this number. To date the only firm evidence for the number of systems produced is the 1972 18-bit Service list, which shows 99 systems. Unless further information surfaces in the future, which is now probably unlikely, 99 shipped systems it will have to be.
1.From the DEC book "Computer Engineering - A DEC view of hardware systems design", it is apparent that the original - sales goal - for the PDP-7 range was 120 units.
と書かれています。
実際、“Computer Engineering”のP148には
The goal was to sell 120 systems, more machines than the total of all other DEC computer systems sold to date.
と書かれており、実際に120台売れたとは書かれていません。 同書P166のTable 5にあるPDP-7に対する120台という数字はNumber Producedですので、120台生産したが、20台程度は売れ残ったのかもしれません。

 こういったことを考えると、ぴったり100台かどうかはわかりませんが、PDP-7は100台程度売れたと考えるのが妥当と思われます。


前回へ         次回へ