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ビル・ゲイツ初期の経歴を再検証 --- Part23

・ビル・ゲイツら数人の生徒が、コンピュータの利用料をすべて使ってしまったことに、他の親は文句を言わなかったのか。

 以下のように書かれています。
P25:1969年1月にいよいよコンピュータの授業が始まると、2人はたちまちプログラミングの虜になった。

P26:しかし、学校の年間予算は、2人の実験を支えるほど潤沢ではなかった。6カ月後、学校は2人の両親に、ゼネラル・エレクトリックへの支払いを一部負担してくれるよう頼みこむはめになった。まもなく両親の負担も限界に達し、2人の端末アクセスにストップがかかった。
 これも、1次資料にかかれている内容と矛盾します。
 1次資料から読み取った年表を見ると、「6カ月後」というのは、CCC社での無料利用期間が終わり、個々にアカウントを取って支払いをするようになった時期です。
 これは、コンピュータを利用した生徒の親は全員が支払いを求められるのであり、ビル・ゲイツとポール・アレンの親だけが負担を求められたのではありません。
 また、支払先はCCC社であり、ゼネラル・エレクトリック社ではありません。支払いは、使った量に応じて決まり、その全額を支払うのであり、一部の支払いが求められたわけではありません。
 両親の負担が限界に達し、2人がコンピュータを利用できなくなったということも、1次文献には書かれていません。

 さらに、この書籍では、CCC社に関する時間的な前後関係の記述にも問題があります。
 先に引用した、
P26: 2人の端末アクセスにストップがかかった。
という記述の直後に、以下のように書かれています。
P27: しかし2人はまもなく、コンピュータが使いたいだけ使える意外な穴場を発見する。

P28:こうしてビルとポールは、マシンタイムをただで使うかわりに、PDP10ソフトウェアのバグ・リストや、クラッシュが発生した時の詳細な状況報告を定期的にCCCに提出することになった。
 この記述は、時系列では、
・1969年1月に学校でコンピュータが利用できるようになる
・6カ月間学校のコンピュータを利用する
・学校の予算が底をつく
・CCCで無料でコンピュータが使えるようになる
であると読めます。

 しかし、1次文献からすると、これは
・学校でコンピュータが利用できるようになる
・1カ月で学校の予算が底をつく
・ちょうどそのころ、CCC社のコンピュータをただで使えるようになる
・4カ月程度CCC社のコンピュータをただで使う
・無料期間が終わり、個々にアカウントを取って、CCC社のコンピュータを有料で使う
が正しい時系列です。

 年表の形で比較すると、以下のようになります。
月・時期 1次文献 本2次文献
1968 レイクサイドスクールでGE-635のコンピュータが使えるようになる
11月 CCCのPDP-10が無料で使えるようになる
1969 1月 レイクサイドスクールでPDP-10を用いた授業が始まる
2月 CCCのPDP-10の使用が有料になる
6月ごろ CCCのPDP-10の使用が禁止される レイクサイドスクールが用意したコンピュータの予算を使い果たす
7月ごろ CCCのPDP-10が無料で使えるようになる


 さらに、CCC社のコンピュータが使えなくなった時期について、この2次文献では以下のように書かれています。
P29:PDP10のユーザーは自分の名前とパスワードを入力したうえで、使う権限のある情報だけにアクセスできることになっていた。ところがビルは、悪意があったわけではなくチャレンジ精神から、パスワードチェックをすり抜ける方法を発見した。コンピュータのセキュリティ・システムをこうしてバイパスすれば、見る権限のない情報にもアクセスできる。しかし、のぞき見のスリルを楽しんだのも束の間、ビルのいたずらのせいでシステムがクラッシュした。CCCのエンジニアたちはかんかんに怒ってビルを叱り、コンピュータの使用権を取り消した。

P29: こりないビルは、ワシントン大学のPDP10がサイバーネットにつながっているのに目をつけた。

P30: CCCではあんなことになったが、なんとかサイバーネットに忍びこんでみたい。

P30: ビルの計画は完璧に成功した。

P30: すべて計画通りに進行した・・・・・のだが、数分後、ネットワーク上の全コンピュータがクラッシュした。

P30: ビルはまた捕まった。

P30:今度の𠮟責はCCCの比ではなかったので、さしものコンピュータ熱もいささかさめて、もう2度とコンピュータには触れないと約束するほどだった。少なくともそれから1年、ビルは約束を守った。

P30:一方、ポール・アレン、リック・ウェイランド、ケント・エヴァンスの3人はCCCの仕事を続けて、PDP10ソフトウェアのバグをあぶりだしていた。
 1次文献と比較すると、管理者パスワードを見つけ出したと解釈できる部分は一致しています。しかし、システムをクラッシュさせたとか、それが理由で使用権を取り消されたという記述は、1次文献と合いません。1次文献によると、課金情報を管理するファイルを見出したが、暗号を解くことはできず、不正に管理者としてログインしたことが発覚して使用権が一時停止になっています。
 また、使用権が一時停止になったのは、ビル・ゲイツとポール・アレンの2人であって、この書籍に書いてあるようにビル・ゲイツだけが使用権を取り消されたのではありません。

 CCC社のアカウントが停止になっている間、ワシントン大学のコンピュータを使っていたというのも、1次文献の記述と合いません。
 1次文献によると、ワシントン大学にもぐりこんだのはポール・アレンだけで、実年齢より若く見えるビル・ゲイツは怪しまれるからということで誘われていません。

 1次文献はあくまでもポール・アレンが書いたものですので、ビル・ゲイツが、ポール・アレンの知らないところで、CCC社のコンピュータをクラッシュさせたり、ワシントン大学にもぐりこんだりしたという可能性はゼロではありませんが、状況を考えれば不自然ではあるでしょう。

 1次文献によると、ビル・ゲイツも最終的にはワシントン大学のコンピュータを使うようにはなりますが、「大学に通っていることは夏の間、誰にも言わずにいた」とかかれており、CCCが倒産してから半年くらいはビル・ゲイツには知らせていなかったということになります。

 コンピュータネットワークに侵入したという話も不自然です。
1次文献によると、ビル・ゲイツらは、CCC社のコンピュータ上で、課金情報管理ファイルを見つけはしますが、それ以上何もできずに発覚しています。その程度の実力であったわけです。そんなビル・ゲイツに、コンピュータネットワークへの侵入などできるでしょうか。そんなことができるのであれば、ワシントン大学の正規の学生が何回もネットワークに侵入していたでしょう。そんなネットワークを作るとは思えません。

 そもそも、もし仮に、この時点でビル・ゲイツが、ワシントン大学にもぐりこんでいたとしても、あえて自身が追放されるようなリスクを冒す理由がありません。CCC社のアカウントを停止されているのに、同じような過ちをもう一度犯すでしょうか。

 このように、この2次文献は多くの面で不自然であり、あまり信用のおけるものではないと思います。


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